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キャズム理論とは、イノベーター理論における初期市場とメインストリームの間にあり、製品・サービスが市場に普及するためには深い溝があるという理論です。
キャズムを乗り越えるには、自社の立ち位置や製品を詳しく理解し、正しいターゲットにアプローチすることが鍵になります。
今回は、キャズム理論の概念とイノベーター理論との関係、対処法、キャズムを乗り越えて成功した企業の事例などを詳しく解説します。
キャズム理論とは?
キャズム理論とは、イノベーター理論における初期市場のイノベーターとアーリーアダプターを越え、アーリーマジョリティなどのメインストリームに入るためには、キャズムと呼ばれる深い溝を乗り越えることが市場開拓において重要とする理論です。
特にキャズム理論は新規事業の立ち上げを成功させ、製品が市場に普及するためのポイントとされています。
イノベーター理論とは?
では、キャズム理論の根幹にあるイノベーター理論についてもみていきましょう。
イノベーター理論は、製品・サービスが市場にどれだけ普及しているかを表したマーケティング理論で、普及率に合わせて次の5グループに分けられます。
- イノベーター(革新者、市場全体の2.5%)
- アーリーアダプター(初期採用者、市場全体の13.5%)
- アーリーマジョリティ(前期追随者、市場全体の34%)
- レイトマジョリティ(後期追随者、市場全体の34%)
- ラガード(遅滞者、市場全体の16%)
イノベーターとアーリーアダプターは初期市場、アーリーマジョリティからラガードまでをメインストリームと区分しています。
それぞれのグループについて、消費者のタイプは次のように分けられます。
イノベーター | 最も早く製品を採用する層で、情報感度が高く、新しい製品を積極的に採用する好奇心の強いグループ
訴求ポイント: |
アーリーアダプター | トレンドに敏感で、日頃からアンテナを張って情報を収集、メリットを判断して採用するグループ
訴求ポイント: |
アーリーマジョリティ | 比較的高い情報感度を持つが、新しいものを取り入れることに慎重で、流行しているものに便乗するグループ
訴求ポイント: |
レイトマジョリティ | 新しいものに対して懐疑的で、周囲の動向を伺いながら、採用を検討するグループ
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ラガード | 保守的な意識を持ち、新しいものに対して全く興味・関心がないため、一般化して初めて採用するグループ
訴求ポイント: |
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キャズムが発生する理由
次に、なぜイノベーター理論においてキャズムが発生するのかという理由についても解説していきます。
キャズムが生まれる大きな理由には、アーリーアダプターまでの初期市場と、アーリーマジョリティからのメインストリームの間には、消費者の価値観の隔たりがあるためと考えられます。
消費者グループの価値観を考えた時、初期市場とメインストリームで大きな違いがあるとすれば、「好奇心」「新しさ」「安心感」です。
初期市場にあたるイノベーターとアーリーアダプターでは、先進性や流行の可能性が重視され、誰も採用していないからこそ採用するという傾向があります。
つまり初期市場のグループにとって、誰も持っていない商品を持っていることが重要であり、その後の普及や利用についてはあまり考えていません。
そのため、考え方としては投資家に近く、誰も持っていないものに投資し利益や注目を集めることに価値観の重きが置かれています。
一方、メインストリームのグループを見ていくと、最も情報感度の高いアーリーマジョリティであっても、流行が始まってから乗り遅れまいと採用する傾向があります。
さらにレイトマジョリティやラガードになると、世の中で完全に受け入れられ、日常的に使われるようにならない限り採用を考えません。
この傾向から、メインストリームの消費者は同調性を価値観としており、周囲と同じものを採用することで安心感を得ていると考えるべきです。
キャズムが発生する理由には、初期市場とメインストリームで全く異なる価値観があり、その壁を越える対策を打てないことが関係していると考えてよいでしょう。
市場規模については以下の記事で解説しています。
【関連記事】市場規模とは?調べ方や具体的な算出方法・活用方法を紹介
キャズムを超えるためのポイント
キャズムを超えるためには、具体的な施策を立てて実行していくことが重要です。
キャズムを超えるための5つのポイントについて解説します。
ポイント①自社の現状を把握する
キャズムを超えるためには、まず自社の製品・サービスがイノベーター理論におけるどの段階にあるのか、現状を把握しましょう。
イノベーターの段階にあるのなら、キャズムが生じる前の段階と考え、アーリーアダプターへのアピールを中心に普及を進めるべきです。
すでにアーリーアダプターの段階にあり、アーリーマジョリティへの普及を課題にしているのなら、どうやってメインストリームへの普及を進めていくか戦略を検討しなければなりません。
自社の現状によって取れる戦略も異なるため、現在地を客観的に把握することがキャズムを超えるポイントになります。
ポイント②ターゲットを1つに絞り込む
どれほど有益な商品であっても、その価値を正しく理解し、適切な市場にアピールしなければ普及することはありません。
例えば、アーリーマジョリティを含むメインストリーム全体を狙うのであれば、まずは1つの消費者グループにターゲットを絞るべきです。
市場向けのマーケティングについて、キャズム理論を提唱したジェフリー・ムーア氏は、「複数の市場セグメント(グループ)を同時に追い求めてしまうと、キャズムを乗り越えられない」としています。
つまりキャズムを乗り越えることを考えるなら、まずはアーリーマジョリティをターゲットに絞り、自社製品の何をアピールすべきかを検討しましょう。
アーリーマジョリティへの普及がある程度進んだ段階で、次のターゲットを設定してシェア拡大を考えるのが理想です。
ポイント③アーリーマジョリティへのアプローチを強化する
イノベーター理論において、アーリーマジョリティは先進的なものや流行への感度が高く、新しいものが普及するために重要な役割を担っています。
初期市場の消費者グループは、イノベーターとアーリーアダプターを合わせても消費者の16%程度でしかありません。
一方アーリーマジョリティは、消費者の34%を占める大きなグループで、初期市場の消費者と合わせれば、全消費者の半数に達します。
またレイトマジョリティは消極的な姿勢が目立つため、商品やサービスが一般化してから採用する傾向があります。
そうした消費者の傾向を考えると、キャズムを乗り越えるためには、まずアーリーマジョリティ向けのアプローチを強化すべきです。
アーリーマジョリティは年齢層で言えば、中高生などの流行に乗りやすい世代が多く、SNSの口コミやインフルエンサーの影響を受けやすい特徴があります。
訴求ポイントの「すでに流行が始まっていること」「流行に乗り遅れることに対する恐怖感」などを意識してアプローチすれば、アーリーマジョリティを取り込むことができるでしょう。
ポイント④ユーザビリティを向上させる
キャズムを乗り越えるには、ターゲットの絞り込みやマーケティング戦略だけでなく、製品そのもののユーザービリティも非常に重要です。
どれほど有益な製品でも、ユーザビリティを考慮していなければ採用されません。
例えば、携帯電話が現代に普及したことを考えればわかりやすいでしょう。
最初期の携帯電話は、据え置き型の電話そのものを持ち運んでいましたが、現代はスマホという形になり、手のひらサイズで誰もが使用しています。
ユーザービリティも同じで、初期市場からメインストリームで採用されるには、消費者が利用していてストレスがなく、誰でも使いやすいことが重要です。
特にレイトマジョリティやラガードの消費者は、先進性よりも安心感を重視する傾向があります。
ユーザービリティを向上して広く社会に受け入れられれば、自然とメインストリームでも採用されるようになるでしょう。
ポイント⑤先進性と信頼性を発信してもらう
より多くのユーザーに自社製品を利用してもらうには、先進性と信頼性の両面を発信していくことがポイントになります。
ただし自社が発信するだけでは限界があるため、イノベーターやアーリーアダプターに商品を使用してもらい、インフルエンサーを通じてSNSや口コミで情報発信してもらうとよいでしょう。
まずはイノベーターやアーリーアダプターのグループ内で商品を認知してもらい、そこから流行に乗り遅れたくないアーリーマジョリティにアピールするというのが理想的な形です。
実際に使用した人の意見や口コミは信頼性が高く、情報感度の高いユーザーに効果的なアピールになります。
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キャズムを超えられた企業事例
キャズムが生じながらも、乗り越えた企業の事例をご紹介します。
事例①ネスカフェアンバサダー
ネスカフェアンバサダーは、2012年に販売されたネスレのコーヒーメーカーを職場などに置くシステムです。
登録するとコーヒー代金を支払うことで、アンバサダーと呼ばれる人を職場内に配置し、好きなコーヒーを飲めるようになります。
イノベーター理論においては、アンバサダーがアーリーアダプターに該当し、アンバサダーを経由してネスレの良質なコーヒーを誰でも楽しめるようになっています。
アンバサダーが実際にネスレの「バリスタ」を使用した口コミを発信し、今ではメインストリームでも普及するようになりました。
事例②メルカリ
メルカリはスマホだけで簡単に物の売り買いができるフリマアプリで、累計利用者数は約4,800万人とされています。
利用者が自ら商品を撮影し、説明文を打つという手間が発生するサイト設計上、ユーザビリティの向上が急務でした。
現在でもUI・UXの改善に余念がなく、月間利用者数は2,000万人以上にまで成長しています。
またユーザビリティの向上だけでなく、大規模な宣伝を行ったことでマーケティングに成功し、スマホ時代に適応した事例といえるでしょう。
事例③LINE
LINEは日本で広く利用されているSNSの1つで、日本人の利用率は8割に達するともいわれています。
従来のメールによるコミュニケーションを発展させ、情報の送受信をスムーズにしたことで、一般化したコミュニケーションツールです。
スマホの普及と共にLINEの利用者も増えており、電話帳のデータを参照して友人を登録し、誰でも手軽に連絡を取りやすいことから利用者が増えたと考えられます。
また機種変更の際も、LINEのデータを移行するサービスが展開されており、利用者が利用しやすい仕組みもできあがっています。
周囲にLINEの利用者が多いことから、自分もスマホにインストールして連絡しようと考える方も多いのではないでしょうか。
まとめ:キャズムはあらゆる製品とサービスがぶつかる壁
現在私たちが利用しているものも、ほとんどがキャズムを経験して乗り越えた結果、社会で受け入れられています。
どのような製品・サービスにもキャズムが訪れることを知れば、乗り越えるための対策と改善案も検討できるはずです。
そして、イノベーター理論における消費者グループの違いを理解すれば、自社の現状を客観視し、具体的な対処もできるようになるでしょう。
キャズムが生じても、そこを限界と考えるのではなく、前向きに対処していくことでメインストリームに採用されるものを目指しましょう。