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目次
コングロマリットとは、業種が異なる企業を合併や買収でグループ企業として連携し、発展していく企業の経営戦略の1つです。
コングロマリット・ディスカウントは、市場における企業価値が下がってしまうことを指します。
しかし国内の大手企業がコングロマリットを進め、成功した事例はいくつもあります。
今回は、コングロマリットとは何か、どんなメリット・デメリットがあるのかについて、成功した企業の例も挙げながら詳しく解説していきます。
コングロマリットとは?
コングロマリットは、業種が異なる企業同士が合併や買収で連携し、発達した企業のことを指します。
日本語では、複合企業や他業種企業ともいわれます。
一般的に、企業の合併・買収では同じ業界・業務に関係性のある企業を選ぶものですが、コングロマリットは自社と関係性の薄い企業同士である点が特徴です。
日本で有名なコングロマリットの例は、SONYやGMOインターネット株式会社、日立製作所などがあります。
元々コングロマリットは地質学の分野で用いられた言葉であり、「集塊」「凝集する」といった意味があります。
似たような言葉にはコンツェルンというものもありますが、定義と目的が異なるため、使用する際は注意しましょう。
コングロマリットは事業の多角化を目的にしており、複数の業種が並行して発達した企業です。
一方、コンツェルンは巨大企業が複数の子会社を持ち、業界や市場を独占する企業形態です。
コングロマリットはそれぞれの企業がノウハウを生かし、同じ企業名で経営の多角化を図っている点に大きな違いがあります。
コングロマリットを進める場合、企業にはリスクヘッジと売上・販路の拡大といった目的があるケースが多いです。
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コングロマリット・ディスカウントとは?
コングロマリット・ディスカウントとは、積極的なM&A(企業買収)などで事業を多角化した企業において、各企業が単体で経営していた時に比べ、市場からの評価が低下し、株価が下落してしまうことを指します。
コングロマリットは関係性の薄い業種同士で合併・買収を行うことから、相乗効果が生まれにくく、リソースも分散して経営が複雑化するため、競争力が下がりやすいという問題があります。
そのため市場からの評価が下がりやすく、その結果生じるのが企業の信頼が下がってしまうコングロマリット・ディスカウントという状態です。
逆に競争力が強化されて株価が上昇することもあり、この時はコングロマリット・プレミアムと呼ばれます。
コングロマリット・ディスカウントの背景
コングロマリット・ディスカウントが起こる背景には、株価査定が難しいという点が大きく関係します。
例えば、単一の業界で活躍する企業の場合、企業独自の技術や販路、実績などを反映できるため、成長している市場なら企業も順調な成長が期待できます。
しかしコングロマリットは全く別の業界の企業が合併しているため、単純に業界や事業ごとでの評価がしにくくなり、株価の査定が難しいのです。
そのため市場からは評価が下がりやすくなり、現在においてはコングロマリット・ディスカウントがつくのが主流になっています。
一方で、過度なコングロマリットディスカウントが起きている場合、株価が見直されるきっかけがあると株価が上昇することや、事業分割によりそれぞれの事業が同様の業種のPER・PBRと比べられるようになり株価が上昇することもあります。
有名な事例として投資の神様といわれるウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイは2020年に大手商社5社の株式を5%購入し、2022年、2023年にも買い増しを行っています。
最終的には9.9%程度の持ち分まで増やす可能性があると表明を行っており、2020年の購入時からは2023年7月時点で既に2倍以上に株価が上昇しています。
また、事業分割による価値向上を狙うケースもあり、米HPや現フィリップインターナショナルを有していたアルトリアグループは代表的な事例と言えます。
直近では身近な企業として日本の東芝が2021年に会社分割を行っており、大きな理由の一つにコングロマリットディスカウントがあると推察されています。
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コングロマリットのメリット
コングロマリットには、マイナス要素だけでなく、企業にとってのメリットもあります。
コングロマリットによって企業が得られるメリットは次の通りです。
- リスクヘッジができる
- シナジー効果が期待できる
- 中長期のビジョンを描きやすい
メリット①リスクヘッジができる
近年のビジネスは、非常にトレンドの移り変わりが激しく、数年の間に事業の収益の目処が立たなくなることもしばしば起こります。
単一の市場でビジネスを行っている企業こそ、そうしたリスクが高くなり、倒産の危機を迎える可能性が高いのです。
企業のリスクヘッジという観点から、戦略としてコングロマリットを進める企業も多くなっています。
例えばSONYは元々テープレコーダーの製造会社でしたが、現在ではゲーム機や金融部門にも参入しています。
コングロマリット化することで経営の多角化が進み、グループ全体の経営が健全化しやすいという点がメリットの1つです。
メリット②シナジー効果が期待できる
コングロマリット化した企業は、同一グループ内に異なる業種の企業が存在することになり、それぞれが独自の技術やノウハウを持っているはずです。
単一の業種だけで経営を進めた場合、技術やノウハウなどが偏りやすく、長期的には企業経営の行き詰りにつながります。
しかし、コングロマリット化することで異なる業種に技術、ノウハウを取り込むことが可能になり、思わぬシナジー効果を生み出す効果が期待できます。
日本企業の例でいえば、日立製作所のIoTプラットフォームによるロボティクスやデジタルソリューション技術です。
コングロマリット化した結果、物流センターの省人化と需要予測が可能となり、eコマースによる物流センターの需要拡大にも対応できるようになりました。
日立製作所が時代に合わせた変化に適応できたのも、コングロマリットのメリットといえるでしょう。
メリット③中長期のビジョンを描きやすい
コングロマリットは短期的にはコングロマリット・ディスカウントの影響があり、即効性のある経営戦略とはいえません。
しかし各業界で一定の売上や市場を持つ企業と合併することで、中長期的な経営ビジョンを描きやすくなります。
例えばインターネット通販大手の楽天は、銀行や証券会社などのフィンテック、プロ野球などのスポーツまで、幅広くサービスを展開しています。
金融事業の強みを活かして、グループ内企業の安定した経営を進めた事例です。
コングロマリットのデメリット
続いて、コングロマリットによるデメリットもご紹介します。
- 企業価値が低下しやすい
- 企業間でコミュニケーション不全が起こりやすい
- 短期的な経営戦略には不向き
デメリット①企業価値が低下しやすい
コングロマリットでは一時的には市場からの信頼や評価が低下し、企業価値が低下しやすいというデメリットがあります。
複数の事業を同時に展開することから、市場からの株価査定が難しくなり、グループ全体の企業価値が低下するリスクがあります。
一方で経営が安定化していれば、企業価値の下落は一時的なものに留まるため、合併する企業や業種による影響が大きいといえるでしょう。
デメリット②企業間でコミュニケーション不全が起こりやすい
コングロマリット化した企業は、異業種同士が同一グループ内に混在することになり、双方向での情報共有に成功すれば、グループ全体の発展につながります。
しかし異業種間でのコミュニケーションは難しい点もあり、コミュニケーション不全を起こすリスクも十分考えられます。
コミュニケーション不全が発生すると、技術やノウハウの共有が上手くいかず、個々の事業が独立してしまい、シナジー効果が生まれません。
企業を発展させる戦略が、かえって自らの首を絞める結果になることもあるため、経営者のかじ取りが非常に重要な経営戦略です。
デメリット③短期的な経営戦略には不向き
コングロマリットはあくまで中長期的な経営戦略であり、明確なビジョンを持って行う必要があります。
実績のない企業を合併することで、短期的にはステークホルダーからの評価が下がりやすく、即効性のある戦略とはいえません。
そのため、コングロマリットで何を目的にするのか、中長期的に企業がどう発展していきたいのか、事業の収益性などを総合的に判断しなければ、短期的には経営が立ち行かなくなる危険もあります。
コングロマリットの成功事例
コングロマリットに成功した企業の事例についてご紹介します。
事例①日立製作所
総合電機メーカーの日立製作所では、IoTプラットフォームを主体に、グループ内の各事業を連携することに成功しました。
特にデジタルソリューション分野では「制御技術(OT)」「情報技術(IT)」「製造業(プロダクト)」の3つを組み合わせ、ビッグデータ解析によるロボティクス・デジタルソリューションで物流センターの業務効率化を進めました。
国内でも有名なコングロマリット成功事例といえるでしょう。
事例②GMOインターネット
GMOインターネットは、インターネットインフラ事業を主力として、金融事業やメディア事業などのコングロマリットを成功させました。
インターネットを駆使して広告やメディア戦略を行い、株式・FX・仮想通貨などの事業も手掛けています。
インターネットと金融を融合させ、フィンテック事業に特化して成功した事例です。
まとめ:コングロマリットを進めるなら中長期の経営ビジョンを持とう
コングロマリットとは何か、どんなメリット・デメリットがあるのかなどを解説しました。
コングロマリットは一時的に経営を不安定化しますが、中長期での企業経営を考えるならプラスになる戦略です。
通常、コングロマリットを目指すというよりは多角化を進めた結果、コングロマリットになってしまったというケースが多いかと思いますし、そもそもコングロマリットと呼ばれるほどの規模の事業を見ている方は多くないはずです。
しかしながら、多様な事業を行っている大企業に在籍されている方の中では、将来多角化が行き過ぎた場合にコングロマリット・ディスカウントの観点から自身の携わっている事業が事業整理の憂き目に合うのではないかと懸念されることはあるかもしれません。
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