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市場変化がものすごく速くなった昨今、その変化に対応する経営が求められています。
そうしたなかで、近年になって再び注目を集めたのがデザイン思考です。
デザイン業務で広く用いられてきたデザイン思考は、ビジネスおける課題の解決策を見出そうとする際に有効な手段です。
この記事では、デザイン思考の概略、ビジネスに利用されるようになった理由、メリット、実例など、デザイン思考を使った課題解決について説明していきます。
デザイン思考とは?
「デザイン思考」(Design Thinking)とは、デザイナーがデザインを考案する際に用いるプロセスを、ビジネス上の課題解決のために活用する考え方ということができます。
デザイナーが設計した衣服や建築物といった「デザイン」そのものと混同されがちですが、ビジネスにおけるデザイン思考は、「デザイン」そのものではなく、あくまでこれらのデザインが設計される際に用いられた思考のプロセスを指します。
また、デザイン思考は、「イノベーションを生み出す人間中心のアプローチ」として革新的な商品やサービスを生み出す方法論としても評価されています。
その意味するところは、デザインの力によって、顧客、ユーザーの側の視点でプロトタイプをつくり、それに改良を加えていくというプロセスを通じて、企業が直面する商品・サービスに関する課題を解決することができるというところにあります。
アート思考との違い
「アート」には芸術や美術という意味があります。
芸術家は、作品を生み出す過程で、自身の思考や感情をベースとした作品をつくり出します。
アート思考とは、こうした芸術家の持つ発想力を応用できるフレームワークです。
「アート」と「デザイン」という言葉だけを見ると似ていますが、デザイン思考がユーザー視点で課題を発見して解決をはかる思考法なのに対して、アート思考はユーザーのことを考慮せず独創的なアイデアを生み出すという点に違いがあります。
ビジネスにおいて注目されるようになった背景
VUCAと言われる先が見えない時代において世界中の企業がイノベーションの重要性を認識するなかで、デザイン思考が注目されるようになったのは、アメリカのデザインコンサルティングファームIDEO社がイノベーションを生み出す手法としてデザイン思考を活用していること、そしてP&Gやヒューレットパッカードなどの名だたる企業が導入していることが話題になったのがきっかけです。
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デザイン思考の5つのプロセス・フレームワーク
ここからはデザイン思考の全体像がはっきりするように、デザイン思考の具体的な5つのプロセスについて説明していきます。
①観察・共感(Empathize)
まずユーザーの思考を観察、理解し、ニーズを探っていくことから始めます。
デザイン思考では「ペルソナ」(ユーザー)を設定することが重要とされています。
デザイン思考におけるペルソナでは、「20代女性」というような一般的なターゲットではなく、より深く・詳細な部分の設定が求められます。
その項目は「年齢、居住地、職業・家族構成そして趣味・現在の悩み・日々の生活スタイル」などに及びます。
この詳細な設定によってマーケティングスタッフの間で共通認識が醸成されマーケティングのズレを防止することができます。
具体的には、この項目についてインタビューやアンケートを取る、観察することでユーザーが何に共感しているのか、ユーザーが求めているものは何かを見つけ出していきます。
ここではユーザーの本音をしっかりと探り出すことが重要になります。
②定義(Define)
次にユーザーのニーズを定義します。
ペルソナの情報をベースにその人物の潜在的ニーズ、つまり何を実現したいのか、何を課題としているのかを探っていきます。
ここでは、カスタマージャーニーマップの作成も有効な手段としておすすめしています。
カスタマージャーニーマップとは、顧客がある商品・サービスの購入に至るまでの行動や感情、思考などを時系列的に可視化したマップです。
この可視化された行動や思想的な背景をもとにユーザーの潜在的ニーズや課題が浮かび上がり、それによって新たな商品・サービスのコンセプトを定義することができます。
(引用:SATORI株式会社)
SATORI株式会社が公開しているカスタマージャーニーマップの一例を載せましたので参考にしてください。
③概念化(Ideate)
定義ができたら、その課題を解決するための方法案・アプローチを概念化していきます。
アイデア出しにおいては、質より量を重視しブレーンストーミングなどの手法を使って、考えつくアイデアを次々と出していきます。
出てきたアイデアは、カテゴリーに分類し、精査していくことが重要になります。
④試作(Prototype)
概念化の中で出てきたアイデアが固まってきたら、そのアイデアをベースにした試作品をつくります。
実際にプロトタイプを作成することで、アイデアが具現化され、イメージがわきやすくなります。
ここで重要なのは、試作品は時間やコストをできるだけかけずに、取りあえず一度形にしてみるということ。
つまり、コストを抑えて早期に作成することで、レビュー・改善のプロセスを回し、これまで見えてこなかった課題や問題点を洗い出し、プロダクトとして高品質なものへブラッシュアップしていきます。
⑤テスト(Test)
このプロセスワークの最終段階として、試作品に対するユーザーテストを繰り返し、そこからフィードバックされた意見を参考に再度ブラッシュアップをかけていきます。
ここで、定義したユーザーのニーズや概念化や試作品の正当性を確認し、より精度の高い製品・サービスをつくり上げていきます。
また実際に完成した製品・サービスを市場に出した後も、このサイクルを回すことで、常に改善させていくことも必要です。
デザイン思考のメリット
デザイン思考には、次のようなメリットがあります。
①顧客満足度の高い商品サービスができる
ユーザー視点で物事を考えていき、検証・ブラッシュアップを重ねていくため、ユーザーが本当に求めている製品・サービスに近づけていくことができ、高い顧客満足を得られます。
②思考力・質問力が強化される
デザイン思考では、ユーザーへのインタビューなどによってニーズを探り出す必要があり、ユーザーの気持ちを理解する、引き出すための質問力が強化されます。
また、情報収集後に「何がユーザーの潜在的なニーズなのか」をあらゆる角度から考え、熟考し、チームで議論し続けることで思考力が自然とアップします。
③アイデアを出すことが習慣化される
デザイン思考では、できる限り多くのアイデアを出すことが求められます。
よく会議など絵でも批難を恐れて自分のアイデアを出すことを躊躇する人もいると思いますが、デザイン思考が習慣化され、組織に浸透すると、そのような空気感がなくなります。
メンバーがアイデアを出すことが習慣になり、さまざまなアイデアが飛び交うような組織に生まれ変わります。
④多様な意見の受容力が増す
デザイン思考においては、それぞれの意見に向き合う過程で画期的な視点や発見を得ることが期待できます。
そのため、多種多様な意見を受容する力が磨かれます。
この力は、周りからの助言を聞き入れ自己成長につなげるなど、ビジネスマンとしての仕事の向き合い方にも好影響を与えます。
デザイン思考の注意点やデメリット
次にデザイン思考のデメリットを見ていきましょう。
ゼロからの新しいアイデア出しには不向き
新規プロダクトを創出するような、いわゆるゼロベースからアイデアをひねり出すのに「デザイン思考」は不向きです。
デザイン思考は、ユーザーが抱えている問題やニーズを起点に課題を解決する手法です。
そのため、ユーザーにとって未知ものはデザイン思考からは生まれにくいのです。
様々な思考を持った人材が必要
デザイン思考のアイデア出しには、質より量が求められますから、様々な思考や価値観、スキルを持った人材を必要とします。
しかし、多様性を求めるあまり専門領域が異なるメンバーを選出しすぎれば、意見がまとまらず、プロジェクトが長期化する懸念もあります。
長期化すれば当然コストも多くかかりますので注意しましょう。
汎用性のあるありきたりのアイデアになりがち
デザイン思考を重視するあまり、アイデアがありきたりで結果的につまらないものにならないように注意が必要です。
デザイン思考はユーザーのニーズを満たすための思考法ということもできます。
これはつまり、ユーザーを広く設定してしまうと汎用性の高いありきたりのアイデアが選択されがちになるということです。
こうなると新規事業や新規プロダクトに求めていたイノベーションは起こりにくいでしょう。
デザイン思考の実例紹介
最後に、実際にデザイン思考を活用した企業や商品事例について見ていきます。
実例1 任天堂Will
Wiiは、2006年に任天堂から発売されました。
デザイン思考の過程を経て開発された家庭用ゲーム機で開発にあたり任天堂の社員たちは以下のようなさまざまな段階を踏みます。
まず、自社の社員たちの家庭について調査しゲーム機がもたらす負の遺産を検証、それらをもとに、「家族で楽しむことができ、かつ親子関係を良くするゲーム機の開発」といった方向性に定め、開発チームは「家族みんなで楽しめるゲーム機」「リビングで場所を取らないコンパクトな設計」など、方向性に沿ったさまざまなアイデアを出しました。
その結果、さまざまなアイデアをもとに少しずつWiiのモデルは完成していき、重さ・形状・機能性に至るまで考慮し、延べ1,000回以上の試作を繰り返したのち発売されたWiiは、2017年6月時点で1億以上の販売台数を誇り、いまや国民的家庭用ゲーム機として認知されています。
実例2 Apple iPod
Apple社が販売している携帯型デジタル音楽プレイヤーの「iPod」も、デザイン思考の過程を経て開発されました。
iPodは2001年に初期モデルが発売されて以来、現在までに5つの種類が製造されています。
開発チームは、まずユーザーがどのように音楽を聴いているか調査し、「CDからPCへ、そしてプレイヤーへ音楽データを移行することに手間を感じている」ことと、「どこにいても音楽が聴きたい」という欲求を発見します。
それにより、「全ての音楽を持ち運ぶ」というコンセプトが定義されます。
結果的にiPodとPCデータを自動で同期させるシステムを完成、円盤型のマウスによる画面操作といったアイデアが次々に追加され、そのアイデアを盛り込んだ試作品を製作。
その後も試作改良が加えられ2001年10月に初代iPodは完成し、その後5年半で1億台を超える世界的大ヒットとなります。
実例3 SONY 映画撮影用デジカメVENICE(ベニス)
SONYも近年、デザイン思考を採り入れえた製品開発をおこなっています。
映画撮影現場では、5人ほどのチームで1台のカメラを操作するのが一般的です。
そこでSONYのデザイナーは、ハリウッドやロンドンなどの撮影現場に自ら足を運び、ユーザーへ細かい聞き取りを行い、現場での撮影を観察して「いつ、誰が、どのような操作するのか、どのような場面で不便を感じるのか」といったことを理解しました。
それをもとに、できる限りユーザーのストレスを減らせるよう開発を進めていった成果が、ディスプレイの配置や操作性の高いキーレイアウトといったインターフェースでした。
その結果、映画製作に関わるクリエイターやカメラマンたちから「画質と使いやすさを高いレベルで両立している」と称賛を得るプロダクトとなりました。
まとめ
今回は新規事業開発や新規プロダクト創出にかつようできる思考法のひとつとして「デザイン思考」について見てきました。
過程、共感・定義・創造・試作・検証をしっかり実施することにより、世界的大ヒットを記録する製品やサービスが開発されることはよくあります。
実際に実例にあるようなWiiやiPodをはじめ、これまでデザイン思考を通じてヒットを遂げたプロダクトは数えきれません。
ペルソナ(ユーザー)の多様化するニーズに対して、解決すべき課題は何なのかを見極めることで、できるだけ多くのアイデアを創出できれば、企業の新しい可能性、事業の成長性は無限といえます。
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