デジタルツインとは?シミュレーションとの違いと企業・事業への活用事例を紹介

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限りなく現実に近い高精度なシミュレーションができるデジタルツインという技術が注目されています。

その定義やメリット、活用事例、IoTやAIを始めとするデジタルツインに関わる技術を解説します。

デジタルツインとは?

デジタルツインとは?

デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実空間にある情報をIoTや5G等を使って収集し、さまざまな情報を元にコンピュータ上で現実空間を構築する技術のことです。

仮想空間と現実空間に同じものが存在していることから「デジタルツイン」と呼ばれます。

コンピュータ上で限りなく現実に近いシミュレーションが可能となり、製品の製造工程やサービスの在り方の改善、開発期間・コストの削減において有効な手段となります。

例えば稼働状況のデータを蓄積して、故障の予測・故障する前の使用停止や、修理・設備の変更を行うことができるのが大きな特徴です。

デジタルツインが注目される背景と今後の市場規模

デジタルツインが注目される背景と今後の市場規模

IoTやAIを始めとする技術進化により、再現する現実空間の解像度やコストが大幅に改善されたことから、デジタルツインが注目されるようになりました。

また規模が大きい、繰り返しが難しい、期間を要するといった事例に対してもシュミレーションを行うことが可能なことから、デジタルツインがもたらす恩恵は大きいといえます。

市場規模としては、製造業を筆頭にエネルギーや公益事業、物流や小売、ヘルスケアなどの分野での効果・影響・リスクの評価のために活用が進んでいます。

世界のデジタルツインの市場規模は2020年の2,830億円から、2025年には3兆9,142億円の規模になると予測されています。

デジタルツインとシミュレーションの違い

シミュレーションとは「模擬実験」のことです。

本物に似せた空間で行うことで、例として車の走行性能や耐久性の実験に使うテストコース、台風や地震などの自然災害の影響を再現する実験施設などが挙げられます。

つまり現実世界で起こる事象を本物に似せた空間で実際にやってみることで、そこで起こることを検証したり予測したりします。

そのためデジタルツインには、リアルタイム性が高くトライアルアンドエラーが容易であるなど、仮想空間ならではの特徴があるのです。

またデジタルツインは、シミュレーションという大きなくくりの中のひとつであるという点も押さえておきましょう。

デジタルツインのメリット

デジタルツインのメリット

デジタル上で仮説検証を行える、デジタルツインのメリットについて解説します。

期間の短縮・コスト削減

モノ作りでは製品の完成には数多くの試作が必要であり、時間や人員や設備などのコストが多くかかっていました。

しかしデジタルツインでは、仮想空間で試作を行えるようになります。

仮想空間ではコストや時間の経過を観察する必要などの制限を気にすることなく製品を試作したり、変化の激しい環境下において迅速に対応したりすることが可能です。

生産ラインで人員の変更やプロセスの変更を試すことは難しく、変更をするうえでは効果を得られるようにする見立てが必要になります。

しかしデジタル上であれば、人員の配置変更や工程入れ替えによる効果などを、迅速かつ容易に想定できるようになります。

品質の向上・リスク低減

デジタルツインの技術により、製品の品質向上につなげるために製造ラインも含めた検証・予測ができるため、製造時におけるリスクを低減させることができます。

また問題が発生したときには、どの段階で問題が発生したのか原因を特定し、改善策を打ち出せます。

すでに流通している製品に問題が発覚した場合でも、それがどの工程で起こったものなのか、データから割り出すことが可能です。

設備状況の保全・予知

工場設備などで異常が発生した場合には、設置されたセンサーや画像データが状況をリアルタイムに正確に伝え、遠隔地でも正確な状況の判断や原因究明ができます。

また蓄積された稼働の情報から設備の故障を予測したり、実際に稼働している設備を遠隔で確認しながら故障する前にメンテナンスをおこなう判断をしたりといった、設備管理の効率化を図ることも可能です。

遠隔での作業支援・技術伝承

デジタルツインによって、現地で必須だった作業の監督や指導といった業務がリモートで行えるようになり、作業の待ち時間が削減できるなど、複数箇所の同時進行も実現します。

また作業内容を記録・蓄積することで、技術やノウハウをより効率的に、より確実に伝承することが可能になるのもデジタルツインの特徴です。

社会課題へのアプローチ

自然災害に備えた避難訓練の計画や、想定される問題・課題の洗い出し、その解決手段や方法を導き出す取り組みにも、デジタルツインが活用されます。

そのほか農場においても天候や土壌などのデータを元に仮想空間に農場を再現し、農作業の効率向上や人員不足解消に向けた取り組みに活かすなど、さまざまな社会課題解決への貢献ができることも押さえておきましょう。

アフターサービスなど

製品をデジタルツインに対応させることによって、ユーザーの使用状況を分析することができます。

分析した情報から顧客が求めているニーズや不満点を収集し、提案したり、故障時期を予測して適切なメンテナンスを実施したりと、顧客体験の向上にも役立てられます。

また新たなサービスに向けたマーケティング戦略を打ち出す、顧客のニーズに合った新製品やサービスの開発にも役立つといったことも、デジタルツインの強みです。

 

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デジタルツインに活用される主なテクノロジー

デジタルツインに活用される主なテクノロジー

デジタルツインの活用はさまざまなテクノロジーの支えなしには成り立ちません。

そんなデジタルツインを支える主なテクノロジーについて解説します。

IoT

IoT(Internet of Things)はあらゆるモノをインターネットにつなげることをいいます。

「モノ」について、インターネットや通信網を介して情報を収集したり遠隔操作が可能です。

たとえば工場の設備に取り付けられたセンサーやカメラで、温度や湿度、速度、振動、画像データなどを収集できます。

デジタルツインで正確なシミュレーションや管理を行うためには現実で起きていることを模倣する必要があり、実際の機器や工程がどのようになっているかを把握する必要があるため、IoTを用いて現実の状況を把握し、デジタルツインと現実をなるべく同期することが必要となってきます。

VR AR

VR(Virtual Reality)は「仮想現実」のことで、デジタル上で現実にいるような仮想環境を作り出す技術です。

AR(Augmented Reality)は「拡張現実」のことで、現実空間にデジタルの情報を付与する技術です。

デジタルデータを元に作り上げる仮想環境を視覚的に実現させるために、VR・ARの技術が活用されます。

CAE

CAE(Computer Aided Engineering)は「計算機援用工学」とも呼ばれる、製品の設計・開発のシミュレーションを行うツールです。

またコンピュータによって支援される製品の設計・製造や工程設計の事前検討などといったエンジニアリングの作業を指すこともあります。

仮想空間に構築したモデルの試作や、シミュレーションを行うためにはCAEが使われます。物理的な制約から解放され、最適な設計の追求を行うために必須の技術です。

AI

AI(Artificial Intelligence)は人間の知能に代わり、コンピューターやシステムが大量のデータを学習して、人間の知能を再現する技術です。

収集した膨大なデータを人間が処理をするのは大きな負担となりますが、AIを活用することにより、分析や結果の出力を短時間に効率的に行うことが可能になります。

AIはデジタルツインを実現するために必須ではないものの、様々なシミュレーションを行っていく際にはシミュレーションのパターン作成やシミュレーション結果の分析などに活用し、大量の処理を行うことが期待されています。

デジタルツインの活用事例

デジタルツインの活用事例

注目されているデジタルツインについて、どのように活用されているのか紹介します。

製造業

日立製作所では、生産現場の業務の最適化を図るIoTコンパスという「huMan:人」「Machine:設備」「Material:材料」「Method:方法」の頭文字をとった「4Mデータ」をモデリングしたデータを利活用するソリューションシステムを提供開始しました。

それにより原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にする、トレーサビリティの向上で安全性を確保できる生産を実現しています。

モビリティ

富士通はコネクテッドカーやスマートフォン、タブレットなどのさまざまなモビリティデバイス上の情報を仮想的に統合し管理する基盤「Digital Twin Collector」を、自動車メーカーや損保会社などに向けて提供開始しました。

今後車両から集まったデータやドライブレコーダー映像などを、自動車の開発や交通監視、地図作成、自動車保険査定など、さまざまなモビリティサービスへ展開・活用することが期待されています。

都市計画

都市へのデジタルツインの活用事例としては、2014年からシンガポールが推進する「ヴァーチャル・シンガポール」が有名です。

シンガポールの地形、建物、交通網などを3Dモデル化し、あらゆるデータを集約することで、都市や人口の変化を可視化したり、さまざまなシミュレーションを実行したりすることが可能です。

また東京都は少子高齢化、物流の変化、気候変動の危機、首都直下型地震への備えなどの課題に対応するため、2030年に実現できることを目指してデジタルツインの活用に取り組んでいます。

防災

神戸市は理化学研究所、NTTドコモと手を組み、誘導や帰宅困難者対策につなげるプロジェクトを始めています。

震災の際のスムーズな避難という課題の克服のため、デジタルツインを活用し、道幅や信号の場所、建造物​​、人の滞在や移動に関するデータを基に、市内の繁華街、街の状態などのを仮想空間で再現し、南海トラフ地震などの災害時に人々がどのように避難するかを予測に役立てるというものです。

物流

ドイツの大手物流企業DHL社は、グーグルのスマートグラスを倉庫での配送業務に導入しています。

従業員は、ピッキング作業に必要な情報を確認できます。

荷物を持ったまま視線を移動させる必要がなく、作業の精度と効率の向上に繋がっています。

Amazonは全世界の倉庫内にある50万台以上の配送ロボットのオペレーションの最適化にAIを活用したデジタルツインの技術を採用し、配送オペレーションの効率化や、シミュレーションのリードタイム・コストの削減に役立てています。

まとめ

デジタルツインはさまざまな情報を元に、コンピュータ上で現実空間を構築する技術のことです。

限りなく現実に近いシミュレーションが可能となり、設備の現在の状態を評価するだけでなく、将来の動作予測、制御の改良、または稼働の最適化を担います。

IoTやAIを始めとする技術進化により、デジタルツインが注目されるようになりました。

品質向上、リスク低減などのシミュレーションだけでなく、収集した情報から新製品やサービスの開発にも役立てられます。

デジタルツインの構築を検討する際には「TACHIAGE」にお任せください。

 

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執筆者紹介

西村 聖司

アクセンチュアに20年以上在籍後、創業。主に製造業やサービス業のお客様に対して、営業改革や人事業務改革・人材育成、コミュニケーション変革などの企画やプロジェクトマネジメントのコンサルティングサービスを提供。中小企業診断士として、経営指導やベンチャー支援も実施。

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